​事例のご紹介

第1話 遺言があったお陰で助かった事例 

 英子さんは病身の両親と娘夫婦の三世代で生活していました。ある猛暑の日、英子さんから電話が来ました。

 「父名義の土地に、5年前自分が建てた家があるのですが、家族関係が複雑で、父には前妻の子がいます。もし父が亡くなったらその子も相続権があると思うので、後妻である母や娘夫婦も、この土地から出て行かなければいけませんか?」

早速相談の内容を整理し、法務局から公図、地積測量図、登記簿を取り寄せて検討した結果、この土地には、お父さんが50年以上前に建てた納屋の登記があるだけで、英子さんの建てた家が登記されていないことが分かりました。

そこで、英子さんが建てた証拠(建築時の建築業者の証明や領収書など)を揃え、土地家屋調査士に依頼して法務局へ表題登記申請をしました。

※ 財産調査は生活基盤をしっかりさせる意味でも重要です。人生の定期点検のようなものです。

 続いて英子さんは、頑として遺言を書こうとしないお父さんを粘り強く説得し、将来必ず起こる相続争いを避けるため、土地と別棟家屋という父所有の全ての不動産を英子さんに相続ができるように、公正証書遺言を作ってもらいました。

その後、数か月もしない師走の慌ただしい中、急にお父さんが亡くなってしまいました。動脈瘤破裂だったのです。しかし、この遺言があったため、遺産分割がスムースにでき、英子さんは住む場所を失うことも兄弟仲が悪くなることもなく、現在平和な毎日を送っています。

★【教訓】 

 土地家屋は、現実に住んでいるから安心というものではありません。どんな権利で住んでいるのか、そもそもその土地の境界はしっかりしているのか、家の登記はあるのか(これがないと財産でなく「問題地」と呼ばれます!)など、あなたの生活基盤を確認してください。遺言を作成する際の財産調査はここからです(成年後見申立ての財産調査もこれと同じことをしますので、一度やっておくと両方に使え、ムダになりません。)

第2話 遺言がなかったため辛酸を味わった事例 

 孝之さんと幸子さんは、総檜造りの立派で大きな家に住む、結婚50周年を迎えたシニア世代の仲睦まじい夫婦でした。二人には子供はいませんでしたが、甥、姪がよく遊びに来る明るい家でした。そのため、二人とも遺言を書こうなどと夢にも思いませんでした。遺言など書けばかえってもめるもとになるだろうし、どちらか一人残されたら、甥姪が面倒看てくれるだろうと期待していました・・・

 当事務所の講演会にも二人で参加し、相続の知識は得たものの、自分事には全然考えませんでした。

 そして・・・現実は無残なものでした。夫を失った悲しみに追い討ちを掛けるように、「おばちゃん!ぼくたちには 4分の1の相続権があるんだよ。早く分けて頂戴ね!」

 まさか可愛がっていた甥や姪から、遺産を請求されるとは・・・幸子さんはショックで寝込んでしまいました。

 二人の趣味は、家の造作に金を掛けるくらいでしたが、貯金はあまりしていませんでしたので、甥姪へ4分の1の相続分を支払うためには、今住んでいる家を手放すしかありません(※)。

 甥や姪は、いくら懇願しても「払え」の一点張りで、裁判するぞとまで脅してきたので、ついに家を処分して支払いました。

 現在、幸子さんはアパートの1室で、屋敷の前でご主人と一緒に撮った写真を淋しそうに眺めて暮らしています。

 ※遺留分はその遺産を使って生活する人を保護するためのもの。兄弟姉妹は別の家計で生活しているためありません。

★【教訓】 

 お金の前では人柄が変ります。お金のために他人の命を奪う悪人もいるくらいです。甥姪は、高齢の叔母さんに悲しい思いをさせてでも、お金が欲しかったのでしょう。

 法的には、甥、姪には相続権(遺産の4分の1の権利)があるので、欲しいといわれれば、必ず分けなければいけません。裁判してもムダです。

 ただし、「全ての遺産を妻に相続させる」という遺言が あれば、分ける必要は全くなかったのです(兄弟姉妹には遺留分がないため(※)。講演会で学んだ知識をすぐに実行に移すべきでした。たった一言の遺言で妻の行く末を守れたのですが、大変惜しいことをしました。

 

第3話 遺言の時期を失したため相続で苦労した事例 

 食べ物に旬があるように、遺言も書く時期があります。

 世話好きな俊介さんは長年農協の役員をし、後継者がいなくて困っている農家から農地を買ってあげていました。高度成長と共に、高速道路ができ宅地開発が行われ、農地が宅地に変貌していきました。俊介さんの農地もかなりの面積が開発され、宅地となり、市街化区域に編入され地価が上昇していきました。

 俊介さんは高齢となり振り返った時、かなりの資産があることに気づきました。「何とかしなきゃいかんな~。」

 口下手で頑固者のため、子供が2人いるのですが、誰も実家に寄り付かず、交流がほとんどありません。長男は銀行勤めでローンで家を建て、娘は県外に嫁いでいます。税理士に相談したところ、約7億円の資産があると聞いて、妻の佐江子さんと共に、「子供に残すには多すぎる」、「こんなに財産をもらったら、息子も娘も孫も狂ってしまうな~」と悩んでいました。

 そんな俊介さんは無類のお酒好き。気軽に受けた検査で肝臓ガンが見つかり、帰らぬ人になってしまいました。

 当事務所の講演会に参加し、遺言の必要性は十分わかっていたはずなのに、奥さんの「まだ早い」という意見に押され、ついに遺言を書かずに亡くなったのです。

※遺言の目的は財産の相続だけではなく、遺族の行く末の指針でもあります。有名なのは徳川家康の遺訓です。

 7億円を争った家族は予想されたとおりとなりました。現在、息子は銀行勤めを辞めて無職、孫は登校拒否のあげく危険ドラックを吸引して逮捕されました。また、娘夫婦は家庭崩壊で離婚調停中です。

★【教訓】 

 鉄は熱いうちに打てといいますが、遺言講演会で勉強をした時が最良のチャンスだったのです。

 死に物狂いで働き、資産をたくさん作ったが、次の代にそれがどのような結果を招くのか中々分かりません。

 俊介さん一家についていえば、財産に罪があるのではなく、その使い方、分け方を間違えたのでしょう。

 生き金と死に金があるように、ただ漫然と相続させてしまえば、一生何もしなくても生活に困らない金があるのですから、相続人が働かなくなるのは当たり前。また、お金はいくらあっても困らないので、親兄弟からもっとむしり盗ろうとすることも理解できます。

 遺言作成を依頼されていたら、莫大な財産を資産として活用することで子孫が生活に困らぬよう、それをめぐって争わぬようにできたと思うと、とても残念です。

第4話 自筆証書遺言を書いたためとても苦労した事例 

 ちづゑさんは夫を交通事故で亡くしてから、女手ひとつで二人の息子を育て上げました。通勤道沿いに、相続・遺言・行く末不安解消専門の当事務所があるのは知っていましたが、自分には関係ないと思っていました。

 ※自筆証書遺言は家庭裁判所の検認手続きが必要。(但し、令和2年の民法改正により、法務局が遺言書の保管をしてくれ、検認手続きが不要とすることもできます。)その場合、全ての相続人に遺言の内容を教えることになります。

 それでも知り合いが脳梗塞やガンで亡くなっていくのをみて、自分の行く末を案じるようになりました。

 そこで、書店で「一人で書けるやさしい遺言」という本を購入し、遺言作成に取り組みました。この本に書いてあるのは自筆証書遺言※のことでしたので、当然のことながら、財産や相続人の調査など何もせず、自分勝手に、本にある例文のとおりに書き上げました。

 間もなく脳梗塞で半身不随、意思表示ができなくなり、施設に入所後半年で亡くなってしまいました。

 葬儀の後、息子たちは家財整理をして遺言を見つけました。まさか母が遺言を書いていたとは思わなかったのでびっくりしましたが、驚くのはまだ序の口でした。

 なんと土地、家屋、田畑は、まだ祖父の相続が済んでおらず、これについては母の遺言では処理できないことが判明(祖父の相続人全員との遺産分割協議が必要)。

 さらに、母は父との結婚前に、女の子を一人産んでいることが分かり大慌て(その人とも遺産分割協議が必要)。

 相続財産も相続人も、母の意図と大違いだったので、相続手続きに何ヶ月もかかってとても苦労しました。

★【教訓】

 簡単に書けるという触れ込みで、自筆証書遺言を勧める本が多く出版されていますが、このように相続人に負担を掛けるのも事実。

 公正証書遺言でしたら、相続人や財産の調査を慎重に行い、遺産をめぐって争いの起こらないように、法的にも社会的にも安全確実な遺言を作成できます。

第5話 遺言はなかったが死因贈与契約で守った事例 

 年が明けたら遺言を作ろうと言っていた矢先の出来事でした。

 面倒くさがりやで腰の重いお父さんでしたが、当事務所の助言もあって、署名だけで済むからと、「死因贈与契約」を長女の八重子さんと結んだのが幸いしました。

 それは、土地と家屋の全てを八重子さんに遺贈するという内容のものでした。

実印を押印し、印鑑証明書が付いたその死因贈与契約書は、その後、八重子さんとの遺産分割協議を拒んだ、先妻の子との間で、遺産分割調停とそれに続く裁判で、絶大な効果を発揮することになりました。

  • 【教訓】

 ご本人が遺言を書かない事情(例えば、まだ遺言を書く時期でない、遺言は大げさでいやだと言う場合)がある場合は、無理強いせず、本人の署名だけで済む、死因贈与契約をとりあえず作っておくことをお勧めします。

第6話 将来に禍根を残した相続手続の事例 

 銀行で財産3分割法のパンフレットをもらい、資産の3分割に取り組んだ久雄さんは賢明な方でした。数年後、妻と子供二人を残して亡くなりました。

 遺言は残していかなかったので、法定相続分のとおり(※)に遺産分割協議を行って分配しました。

 預貯金はきちんと分けたのですが、母と長女が住む土地と家は「仲がいいから今すぐ分けることはない」ということで、二女との3人の共有名義にしました。  

 その後、二女の夫が事業に失敗し、借金返済のため自宅を売ってお金にしてほしいといわれ、大変驚きました。

 再三話し合いをしても、売らないといけないという結論は変わらず、住み慣れた家を手放すことになったのですが、母と長女は到底納得できませんでした。

★【教訓】

 これは遺言がなかったことが原因の一つです。

 久雄さんは有益な資産運用をし、裕福な生活を送りましたが、死後の備えとしての遺言がありませんでした。

 不動産は、現にその家に住み、家系を継ぐ(お墓を守る)人に相続させるべきです。そのような内容で、万全な対策をした遺言書さえあれば、こんな不幸は避けられたと思うととても残念です。

 もう一つの原因は相続処理が不適切だったことです。このように不動産を共有名義にすると、一人が売却や建て直しを希望しても、相続人全員の印鑑が必要となります。遺産分割協議で苦労したのに、再度不動産のことでもめるのです。何度もやりきれないですね! 

 ※ 遺産分割協議書を作る権限があるのは弁護士、行政書士だけです。司法書士は登記の前提でのみ作成が許されています。

 将来、活用できない不動産にならないよう、不動産は単有(一人の名義)にしておかなければいけません。

 現在大きな社会問題になっている空家問題は、相続処理を失敗した結果が多いのです。早く分割して相続を終わらせれば良いとか、単に相続税申告だけ済めば良いと考えて処理する専門家もいます。

 しかし相続処理は、将来を見据えて、どのように、どの遺産を相続するのが全員の幸せになるのか、という視点で処理すべきです。また、そのように処理してくれる専門家に依頼すべき問題でもあります。

相続処理を依頼する相手を間違えると、このような悲惨な結果が待っています。